アクションのオーガナイザーの一人、ゲオルギイ・キゼヴァリテルが観客のグループをモスクワから行為の場であるキエヴォゴルスコエ原へと引率した。そこへ行くには電車に乗り、それからバスに乗る必要があった。野原はバスの停留所から15分歩いたところにある。キゼヴァリテルはバスを降りるとテープレコーダーの電源を入れ、観客がバス停から野原へと歩いていく道には、ホイッスル(縦笛のマウスピース)と巨大な管状植物の茎でできた手作りのラッパの低い音色が交互に響く録音テープの音声が伴った。録音された音が織りなしているものは、汽笛と鉄道の警笛が呼びかわしているかのような印象を与えた。観客は野原の、風にはためく紫の幕のところへ連れて来られた。この幕はそこで行為が起こるはずの野原の耕された区画から観客の位置を便宜的に区別するものだった。幕と耕地の間には丈の低い草で覆われた狭い帯状の地帯があって、キゼヴァリテルはそこにテープレコーダーを電源を切った状態で立て、中のカセットを裏返した。カセットの裏面にはさまざまな長さのブザーの音が、間隔もまちまちに45分間録音されていた。録音の最後は複数の鳥たちがかなり大きな声で同時に歌っている5分間の記録音声だった。
電源を切ったテープレコーダーを観客の前(幕の向こう側)に置いてから、キゼヴァリテルは耕された野へと向かい、穴に横たわっていて観客からは見えないレートフの隣の位置に着いた。それは観客から右奥に60m行ったところに当たる。その後、観客の中にいたモナストゥイルスキーが野に出て、プラスティックのパイプ(それぞれ高さ1,5メートルのものが11本)と、長い棒の上端に固定した黍の入った赤い袋を5つ、立てて配置していった。袋のひとつは野原の反対側の端に立てられた。モナストゥイルスキーがキゼヴァリテルと穴に横たわるレートフの横の位置についた後、パニトコフが野に出て、モナストゥイルスキーが立てたパイプの上部にある穴に柔らかい針金を通し、人間の横顔、動物や鳥の輪郭などをかたどったフィギュアを作りはじめた。遠くの赤い袋のところで最後のフィギュアを作り終えると、パニトコフは指に固定したゴム鉄砲で、先端を銀のアルミホイルで包んだ木の矢を上に向けて撃ち、野から去った。この一撃を合図にモナストゥイルスキーは赤い袋の角を切り取り、それぞれの袋から黍がこぼれ出した。彼は同時にパイプから針金の一端を引き出してまっすぐに伸ばしたので、パニトコフが作った形象は壊れ、針金は片方の端が地面についている鞭のようになった。その間に黍が出てしまった袋は風にはためく赤い旗になり、そこには白いマルタ十字があるのを見てとることができた。
行為のこの部分を終えたモナストゥイルスキーはあらかじめ掘ってあった穴のところにやって来た。これは野の観客から左手、レートフが横たわっていた穴と同じ距離のところにあった(レートフは観客が野原にやって来る前からそこにいた)。すなわちこれらの二つの穴は、上述の行為が起こった野の区域の、境界のいわば両側面を示していた。モナストゥイルスキーがホイッスルを吹くと、レートフからの応答の合図がモナストゥイルスキーのホイッスルの15秒後に聞こえてきた。しかもレートフの穴の隣に立っているキゼヴァリテルによって応答の合図がカモフラージュされたため、観客には野原におけるレートフの存在がこの時点で明かされなかった。キゼヴァリテルがオーボエを口元に当てたので、観客には見えないレートフが彼の代わりに音を出したにもかかわらず、観客にとっての音の発信源はキゼヴァリテルだった。応答の合図の後、モナストゥイルスキーは穴に横たわり、観客の視野から消えた。
それからキゼヴァリテルは野の旗と針金のついたパイプを集め、幕のところに来て、幕を支柱とともにはずし、電子ブザーの録音テープの入ったレコーダーの電源を入れた。
録音テープをかけた後、観客にはアクションの記録写真の入った封筒が配られ(これはアクション終了の合図のようなものだった)、封筒の配布と同時に野ではレートフ(さまざまな管楽器)とモナストゥイルスキー(縦笛のマウスピース)の音の掛け合いが始まった。こうして、アクションの視覚的要素が終了した後、空(から)の野原で45分間「音の三角形」という楽曲が演奏された。頂点の二つは聴衆(観客が聴衆に変わった)には見えないレートフとモナストゥイルスキーで、耕された野の、観客の右手と左手にある穴に横たわっていた。三つ目の頂点は耕地の端、観客の前に立てて置かれていた録音を流すテープレコーダーだった。
音楽のコンポジションは、鳥たちの歌の記録音声を再生するテープレコーダーの5分間のソロで終わった。
モスクワ州、キエヴォゴルスコエ原
1984年6月2日
N.パニトコフ、A.モナストゥイルスキー、S.レートフ、G.キゼヴァリテル、I.マカレーヴィチ、E.エラーギナ、E.R.、N.S.
V.ネクラーソフ、I.バクシテイン、V.ソローキン、I.ナーホワ、Yu.レイデルマン、L.スクリプキナ、O.ペトレンコ、T.ディデンコ、E.ロマノワ、N.スタヘーエワ、A.ジガーロフ、N.アバラコワ、S.グンドラフ、L.ズヴェズドチョートワ + 13~16名
露文和訳 上田洋子
Translated by Yoko Ueda